神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学部門の 小川 渉 氏らの研究グループの報告。2022年3月16日に「Journal of Clinical Investigation」に掲載。
運動神経の切断やギプス固定などによって、マウスの脚を動かないようにして行った研究結果。
動かないと筋肉でPiezo1が減ることによって、低く保たれている細胞内カルシム濃度が一層低くなり、それによってKLF15が増えて、KLF15がIL-6を増やすことにより筋肉量を減らすというメカニズムが初めて明らかになった。骨折によるギプス固定によって筋肉減少をきたした患者の筋肉サンプルを用いた検討でも、Piezo1、KLF15、IL-6という3つのタンパクが働いている証拠が得られた。
この、Piezo1/KLF15/IL-6経路は、運動による筋肉増加には直接関係しておらず、動かないと、筋肉増加刺激がなくなるだけでなく、「動かないこと」自体によって積極的に筋肉を減らすスイッチが入ることが明らかになった。
報告は、「現在、筋肉減少に対する有効な治療薬はない。今回の研究でIL-6の抗体が筋肉減少の抑制薬として有効な可能性が明らかになったが、IL-6の抗体を用いた治療では免疫能を下げるという副作用が懸念される。今後、Piezo1やKLF15に作用する薬剤を開発できれば、画期的な筋肉減少の治療薬になる可能性が期待できる」とまとめている。
Piezo1
細胞の外から細胞の中へカルシウムを取り込む「窓」のような働きをするタンパク。細胞に圧力が加わると開く「窓」であることが解っており、触覚にも関係している。
KFL15
筋肉減少を促すたんぱく質。
IL-6
様々な炎症の制御に重要な働きをするタンパク。IL-6の働きを抑える抗体は、関節リウマチや新型コロナウイルス肺炎の治療薬として用いられている。
「動かないと筋肉が減少するメカニズムを解明」(神戸大学)
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2022_03_15_01.html
〔管理者コメント〕
「動かないと、積極的に筋肉を減らすスイッチが入る」という報告は、治療だけでなく予防を考える上でも大変重要な報告。