高齢者の転倒・転落の原因・予防策 -フラツキと不安定な歩行は、主に前庭機能低下、サルコペニア/フレイル、閉塞性睡眠時無呼吸と関連。さらに、ビタミンB1とB12の欠乏が関連-(順天堂大学)

 順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター 池田 勝久 氏らの報告。2025年1月24日 順天堂大学ホームページで公表。研究成果は、2024年12月27日「BMC Geriatrics」に掲載。

 加齢性の平衡障害の原因を明らかにして、その原因別の治療法を提供するために、2021年12月から「めまいリハビリ入院」プログラム(2泊3日-体組成計測、平衡機能検査、睡眠検査、視力検査、認知検査、血液検査脈波、心電図、呼吸機能を含み、治療の内容としては前庭リハビリテーション、栄養指導などから構成)を開設し多数の症例を解析。
 今回の報告は、フラツキと不安定歩行のある患者164名(59歳から91歳の男性48名、女性116名、平均年齢80.5±6.1歳)が対象。

 結果のポイント

・ 93%以上で前庭機能低下*1、サルコペニア*2/フレイル*3、閉塞性睡眠時無呼吸*4の3主因が独立または複合的に関連。(上図参照)
・ 3つの主因の重症度スコアの合計が高い患者ほど症状が重症。
・ 23%にビタミンB1*5および/またはB12*6欠乏が合併。

 今後の展開

・ 前庭機能低下に対しては前庭リハビリテーションと呼称される運動療法が有用。前庭リハビリテーションには以下の2つの運動が含まれる。眼球運動のトレーニングを1日少なくとも計20~40分間を5~7週間行う。また静的・動的バランストレーニングを1日少なくとも計20分間を4~9週間行うことが推奨されている。
・ サルコペニア/フレイルには十分な蛋白質(1日体重1kg当たり1.2~1.5g)を含む食事の摂取(栄養指導)とともに筋肉トレーニングが筋力の回復に有用。強調すべきは運動と食事は重要な治療法ということ。家族の支援や近郊のデイケア施設などの利用が必要となる。
・ 重症の閉塞性睡眠時無呼吸には持続陽圧呼吸療法(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)が有用。睡眠中に鼻マスクを着用し、専用の装置で鼻から気道へと圧力をかけた空気を送り込むことによって上気道を広げ、寝ている間に気道が塞がってしまうことを防ぎ、睡眠時も呼吸が維持されるようにする治療方法。CPAP療法によってフラツキや不安定な歩行の軽減が認められる。
・ 欠乏したビタミンB1やB12の補充療法もフラツキや不安定な歩行の改善に有用。
・ さらに、認知症や視力障害が合併する場合には詳しい検査や治療を専門施設で受けることも重要。

 報告は、「フラツキと不安定な歩行は、主に前庭機能低下、サルコペニア/フレイル、閉塞性睡眠時無呼吸と関連している。さらに、ビタミンB1とB12の欠乏、認知機能障害、視覚障害もめまいと不安定な歩行に二次的に寄与している。根本的な原因に応じて適切な治療法を選択することで、高齢者の偶発的な転倒を防ぐことができる」とまとめている。

*1 加齢性前庭障害
 前庭は体のバランスを司る内耳の器官。加齢による両側の前庭機能低下の結果、姿勢の不安定性、歩行障害、繰り返す転倒などで特徴される慢性的な障害。
*2 サルコぺニア
 「加齢に伴う骨格筋量の減少」と定義され、四肢骨格筋量の低下に加え、身体機能の低下または筋力の低下がある場合に診断される。
*3 フレイル
 加齢や疾患によって身体的・精神的なさまざまな機能が徐々に衰え、心身のストレスに脆弱になった状態。フレイルの基準には、①体重減少、②疲れやすさ、③歩行速度の低下、④握力の低下、⑤身体活動量の低下のうち3項目以上該当することで診断される。
*4 閉塞性睡眠時無呼吸
 睡眠中に起こる上気道の部分的または完全閉塞による頻回の呼吸停止(10秒以上持続する無呼吸または低呼吸と定義される)。症状としては、日中の過度の眠気、不穏状態、いびき、繰り返す覚醒、起床時の頭痛などがある。
*5 ビタミンB1
 玄米、胚芽米、全粒粉パンなど胚芽の部分に多く含まれている。
*6 ビタミンB12
 魚介類、藻類、肉類、卵類、乳類に多く含まれている。 


「高齢者の転倒・転落の原因・予防策」(順天堂大学)
 https://www.juntendo.ac.jp/news/21680.html
「Dizziness and unstable gait in the older adults are associated with vestibular hypofunction, muscle dysfunction and sleep disturbance: impact on prevention of accidental falls」(BMC Geriatrics)
 https://bmcgeriatr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12877-024-05620-y