脱水を伴う熱中症は、1日ではなく、数日単位で蓄積されることが判明(名古屋工業大学)

 名古屋市消防局と名古屋工業大学の研究グループの報告。2021年7月13日掲載の名古屋工業大学のプレスリリース。

 名古屋工業大学研究グループは、名古屋市消防局から提供されたビックデータを分析。2019年、2020年の名古屋市における熱中症搬送者数は2,513人。その中から、2019年5月1日~9月30日、2020年5月1日~8月31日の65歳以上の熱中症搬送者を対象とした1,299人を抽出。その55.5%が自宅で熱中症を発症していることを確認。さらに、体温(腋の下)、発生場所、搬送日時、および搬送日の朝から搬送時刻までの気象データから、深部体温、発汗を大規模数値シミュレーションにより再現し、実際の搬送時の体温と比較した結果、救急搬送時の測定体温が37°C以下であった搬送者437人は、応急処置(冷却剤や氷などによる冷却)による影響が大きいとされるため除外。最終的な解析対象者は862人。日本の典型的な家屋では、住宅建材の種類にもよるが、一般的に(エアコン等をほとんど使用しない場合)、4時から19時までは外気温よりも室温が数度低くなり、その後、外気温より室温のほうががわずかに高くなる。このため、より変動の大きな外気温を入力パラメータとして近似。

 健常な成人、65歳、75歳を対象としたモデルを対象に、2020年8月の体内深部温度および体表面温度を解析した結果。一般的な高齢者の体温調整機能を再現した場合では、真夏の屋内では深部体温は、38°C以下であるのに対し、実際の搬送時には体温が38°C以上の患者が42%を占めていた。

 次に、実際に熱中症を発症した65歳以上の各搬送者の状況を計算機で再現し、標準的な高齢者の発汗とした場合、発汗を全くしていないと仮定した場合の深部温度を推定。搬送時に測定された体温と、計算による深部体温の比較をしたところ、発汗がない場合のほうが、実際の搬送時の体温と一致し、暑さの知覚を含む体温調節機能が著しく低下している可能性を示唆。

 また、健常な体温調整機能であると仮定した場合、搬送者の状況から推定される搬送当日の汗の量は、最大でも500g(不感蒸散を除く)程度であり、体重の1%未満であること、食事により一定の水分を取得していることを考えると、脱水症状は、当日のみが影響して生じるのではなく、数日間の水分蓄積によって引き起こされることを示唆。

 報告は「本研究では、体感以上に暑さを感じる機能が低下している高齢者が多いこと、喉が渇いていなくても数日間にわたって少しずつ脱水症状になっていることを科学的に裏付けた。暑いと感じていなくても、喉が渇いていなくても、積極的な暑さ対策とこまめな水分補給が必要であり、周りからの声かけが重要である」とまとめている。


高齢者はなぜ自宅から熱中症で搬送されるのか? ~計算科学と熱中症搬送者統計データの融合による科学的な裏付けに向けて~(名古屋工業大学)
 https://www.nitech.ac.jp/news/press/2021/9079.html


〔管理者コメント〕

 高齢者に限らず、運動時の熱中症に関しても、当日の水分摂取も大切だが、前日、前々日の水分摂取を含む体調管理の影響が大きいと感じる。