健康な歯がうつを予防する(東京医科歯科大学)

  国立大学法人東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の松山祐輔助教の研究グループは、ラドバウド大学のStefan Listl教授、ヴッパータール大学、キングス・カレッジ・ロンドンとの共同研究で、自分の歯が多いとうつ症状が少ないという口腔と精神的健康の因果関係を明らかにした。国際科学誌 Epidemiology and Psychiatric Sciencesに、2021年5月25日オンライン版に発表。

 米国の Behavioral Risk Factor Surveillance System (BRFSS) のデータを分析。 2006、2008、 2010年調査のいずれかに参加した人のうち、1940-1978 年に生まれた169,061人が対象。永久歯が生える年齢に相当する5-14歳の10年間における地域の水道水フロリデーション人口カバー割合を合計し、水道水からのフッ化物曝露の指標とした。

 分析の結果、5-14 歳のときの水道水からのフッ化物曝露は大人になってから自分の歯が多く残っていることに強く関連した。歯を1本失うごとに、うつ症状得点PHQ-8 (Patient Health Questionnaire-8 depression scale:0から 24の値をとり、得点が高いほどうつ症状が重度であることを示す) が 0.146 点 (95%信頼区間 0.0008,0.284)高くなることが明らかになった。また、統計的に有意ではないものの、歯を1本失うごとに、中等度以上のうつ症状 (PHQ-8得点10点以上) がある人の割合が0.81パーセント・ポイント (95%信頼区間 -0.12,1.73) 増えることが明らかになった。

 報告は「口腔疾患は多くの人にみられる病気で、日本でも約4000万人に未治療のう蝕があると推計される。一方で、口腔疾患はフッ化物応用の普及、砂糖摂取の減少、禁煙環境の整備などで予防可能である。本研究から、自分の歯を多く保つことはうつの予防にもなる可能性が示された」とまとめている。

 水道水フロリデーション・・・う蝕予防のため、水道水中のフッ化物イオン濃度を緑茶に含まれるのと同じくらいの濃度に調整する保健施策。海外では70年以上前から実施されており、効果と安全性は科学的に証明されている(米国歯科医師会. 2018)。


「健康な歯がうつを予防する」― 自分の歯が1本多いと、うつ症状得点が0.15点減少 ―(国立大学法人 東京医科歯科大学)(PDFファイル)
 https://www.tmd.ac.jp/files/topics/55020_ext_04_2.pdf
「Causal effect of tooth loss on depression: evidence from a population-wide natural experiment in the USA」
 https://www.cambridge.org/core/journals/epidemiology-and-psychiatric-sciences/article/causal-effect-of-tooth-loss-on-depression-evidence-from-a-populationwide-natural-experiment-in-the-usa/F1A5E8C5DD64EB51E3AB408A9B6B2755