適度な上下動が脳の機能を調整・維持するメカニズムを解明!(国立リハビリテーション病院)

 国立障害者リハビリテーションセンター病院と東京大学などの共同研究グループの報告。ジョギングやウォーキングは代謝改善とは全く別の、足で地面をステップすることによって生じる脳への衝撃を介して、精神疾患の予防効果をもたらす可能性があるという新たな知見を発表。米国の科学雑誌「iScience」に論文が掲載。

 20匹のマウスを2群に分け、1群には1日に30分間、マウスの「適度な運動強度」と考えられている20m/分の速度で前足着地時に頭部に1G(ヒトにとっても適度な運動とされる7km/時のジョギングで足の着地時にかかる力と同程度に相当)の衝撃を受ける速度で運動させ、もう1群は運動をさせない対照群とした。

 7日間経過後、マウスの大脳の前頭前皮質に、神経伝達物質のセロトニンを高用量投与して幻覚を引き起こすさせ幻覚が起きた時に現れる首を振るという動作の回数を比較。運動をさせていたマウスの首を振る回数は、運動をさせていなかったマウスに比べて有意に少なかった(P=0.027)。次に、運動させないマウスに麻酔をかけて、頭部へ上下方向の力を機械的に1Gの力を1秒間に2回、1日に30分、7日間与え、前述の実験同様にセロトニン4を投与したところ、頭部へ衝撃を与えていなかった対照群よりも有意に首振り回数が少なかった(P=0.035)。このことにより、頭部へ物理的な衝撃をかけたことが、運動をしたのと同じような効果を脳にもたらした可能性が考えられることから、運動をさせていたマウスの脳を解剖したところ、前頭前皮質の神経細胞でセロトニン2A受容体が、細胞の表面から細胞内へと移動する「内在化」という現象が起き、セロトニンに対する応答性が低下していることがわかった。続いて、頭部に1Gの力を与えたラットの脳の様子をMRIで確認すると、脳内の間質液が1μm/秒で流動していることが確認された。そこで培養細胞を用いた実験で、その状態を再現すると運動をさせたマウスで見られた現象と同じように、セロトニン2A受容体の内在化が起こった。このことから、頭部に1Gの衝撃を与えるジョギング程度の運動と受動的頭部上下動は、脳内間質液を流動させ、大脳皮質の神経細胞に物理的刺激を与え、セロトニン2A受容体を内在化させ、幻覚反応を抑制することが分かった。

 さらに、確認のために、マウスの前頭前皮質にハイドロゲル(脳内間質液の流れを止めるが栄養供給などは保つができる)を注入して頭部に1Gの力を1日30分、7日間与えたマウスで検証。その結果セロトニン投与後の首振り運動が抑制されず、またセロトニンA2受容体の内在化も起きなかった。

 以上のことから、「運動→頭部に適度な衝撃→脳内間質液流動→脳内の細胞に力学的刺激→脳内の細胞の機能調節」という分子レベルの仕組みが、運動による脳機能調節に広く関与していることが明らかになった。(上図参照)

 研究グループは、「今回の研究は、間質液の動きを促進することが脳機能維持法としての運動の本質の少なくとも一部であり、『運動とは何か?』という問いへの答えにつながるとともに、運動をしたくてもできない障害を持つ人にも適用可能な擬似運動治療法の開発につながる可能性が示せた」とまとめている。

国立障害者リハビリテーションセンター病院(プレスリリース)
 「”衝撃”の事実! ジョギング・ウォーキングの効果は、脳への”衝撃”によるものだった!! 頭への適度な”衝撃”が脳機能を調節・維持することが明らかになった!!!」(PDFファイル)
 http://www.rehab.go.jp/hodo/japanese/news_2019/news2019-03.pdf


※4セロトニン・・・ 脳内セロトニンは、脳内で働く神経伝達物質。生体リズム、神経内分泌、睡眠、体温調整などの生理機能と、気分障害、総合失調症、薬物依存などの病態に関与しているほか、感情的な情報のコントロールや精神の安定に関与している。