早稲田大学スポーツ科学研究センター 河村 拓史 氏らの研究グループの報告。2023年8月30日早稲田大学のホームページで公表。研究成果は2023年8月16日「Aging Cell」に掲載。
「早稲田大学校友を対象とした健康づくり研究(WASEDA’S Health Study)」に参加する65~72歳の高齢男性144名のDNAサンプルを用いて、DNAのメチル化レベルを測定し、第1世代(DNAmHorvath時計およびDNAmHannum時計)および第2世代(DNAmPhenoAge、DNAmGrimAgeおよびDNAmFitAge)のDNAメチル化老化時計※に基づく生物学的年齢および、暦年齢と生物学的年齢の差を表すDNAメチル化年齢加速を算出。
生物学的老化の指標に加えて、最高酸素摂取量を含む体力、体組成、血液生化学パラメーター、栄養摂取量、喫煙、飲酒、疾病状態、睡眠状態、クロノタイプ(朝型か夜型かを決める概日リズムの型)など、さまざまな調査と測定を行いその関係を分析。
結果
心肺体力は、実験結果に影響を及ぼす交絡因子(暦年齢、喫煙および飲酒の有無)の影響を調整した後でも、生物学的年齢加速(GrimAgeAccel)と有意な負の相関を示した。また、基準値を上回る心肺体力の維持は、生物学的年齢加速の遅延と関連することが示された。また、適切な身体組成の維持、炭水化物および微量栄養素の十分な摂取、朝型の生活習慣は高齢男性における生物学的老化の遅延と関連していた。一方で、過度な内臓脂肪の蓄積、喫煙、過度な飲酒、脂質異常症は生物学的老化の進行と関連していた。(上図参照)
それぞれの生活習慣関連変数のDNAメチル化年齢に対する相対的寄与率は、心肺体力よりもむしろ、ふくらはぎ周囲径、血清中性脂肪、炭水化物摂取量、喫煙状況の方が高いことが示唆された。
報告は、「生物学的老化に対する心肺体力の寄与率は、喫煙などの生活習慣関連変数に比べて相対的に低いものの、心肺体力の維持が高齢男性の生物学的老化の遅延に関連することが示唆された」とまとめている。
※ DNAメチル化老化時計は、生まれてからの年数で表される暦年齢を高い精度で予測することができる新規老化バイオマーカーとして多くの注目を集めた。その後、暦年齢の予測ではなく、個々の生物学的状態、すなわち生物学的年齢を捉えるための2世代目のDNAメチル化老化時計がいくつか開発された。2世代目のDNAメチル化老化時計は、加齢性疾患の発症や死亡率に対する高い予測力を有することが多くの先行研究で実証されてきたことから、現在のところ、生物学的年齢を測る最も有望なバイオマーカーの1つであると考えられている。
「心肺体力維持と老化の関係を解明」(早稲田大学)
https://www.waseda.jp/top/news/93107
「Associations between cardiorespiratory fitness and lifestyle-related factors with DNA methylation-based ageing clocks in older men」(Aging Cell)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/acel.13960