国立病院機構東京医療センター聴覚障害研究室の和佐野浩一郎室長、慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室の小川郁教授らの報告。2021年3月24日(日本時間)に「The Lancet Regional Health – WesternPacific」電子版に掲載。
近年、認知症発症において難聴が大きく関わっていることが明らかになり、超高齢化社会をむかえるにあたっての聴覚の活用の重要性が改めて浮き彫りになってきている。そこで国立病院機構東京医療センター耳鼻咽喉科において2000年から2020年までに行われた約7万件の聴力検査結果から、加齢以外の耳疾患による影響と考えられるものを除いた10,681人の10 代から90 代までの幅広い年齢層の男女別データを含む世界初のデータベースを構築。今後このデータベースを用いた研究で解明される結果は、認知症対策など聴覚の活用に向けた積極的な介入を行うための基礎データになることが期待される。
そのデータベースを活用。研究期間の前半(2000 年から2010 年)と後半(2011年から2020 年)の平均値の比較および全体を通しての時系列解析を行った。
結果、8000Hz の聴力が全年齢層で徐々に改善していることがわかった。8000Hz は最も年齢による影響が出やすい周波数であるとともに、喫煙や動脈硬化の影響を受けることが報告されていることから、喫煙率の低下、生活習慣病に対する治療の普及、健康意識の高まりなどが改善をもたらした可能性があるのではないかと考えている。また、高齢になるにしたがって標準偏差(データの散らばり)が大きくなっており個人差が大きくなる傾向を認めた。
しかし、20年の間に40歳代以下の若年層において高音部(4000Hz)の聴力が徐々に低下していることが示された。原因はポータブル音楽デバイスなどによる日常的な騒音曝露の影響によるものと考えられ、イヤホンやヘッドホンなどにおける過大音に対する対策の必要性を示唆する結果であると考えられる。(上図参照)
また、男女とも 40 代から聴力低下が一気に進む傾向が見られ、若年層における聴覚保護の重要性を示唆する結果となった。
報告者らは、「本研究成果をもとに、ポータブル音楽デバイスからの適正な出力制限に関する制度作りが進むことや、消費者の購買行動が出力制限付きデバイスを求める方向に変化することを期待している」とまとめている。
男女別・世代別の平均聴力を解明(東京医療センター、慶應義塾大学医学部)(PDFファイル)
https://tokyo-mc.hosp.go.jp/files/000151558.pdf
〔参考〕
(本サイト内)認知症は12のリスク要因を改善することにより約40%予防可能(ランセット委員会)
https://healthy-life21.com/2020/08/20/20200820/
〔管理者コメント〕
短中期的には、ポータブル音楽デバイスなどによる日常的な騒音曝露の影響は大きいと感じる。ただ、音は振動。長期的には音の大きさに関係なくデジタル化によりカットされた音の振動が生体の「ゆらぎ」に与えていた刺激が取り除かれたことも脳に悪影響を及ぼしているように感じる。