COVID-19パンデミックにおいて正規雇用労働者の希死念慮が増加!(東京大学大学院)

 東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の佐々木那津氏、川上憲人氏らの報告。2021年10月29日「British Journal of Psychiatry Open」に掲載。

 インターネット調査会社によって全国の地域住民より性別と年齢で層別化した上で抽出した正規雇用労働者に「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査(E-COCO-J)」への参加を依頼。さらに、パンデミック第1波前の2020年3月19~22日のベースライン調査を依頼。回答を得た1,448人に、第1波収束後の同5月22~26日に1回目、第2波のピークに当たる同8月7~12日に2回目の追跡調査を実施。

 過去30日間の希死念慮と孤独感については、それぞれ、「死にたい気持ちになるか」、「孤独だと感じるか」という質問に対する1~4点のリッカートで採点(ほとんどない-1点、時々-2点、しばしば-3点、ほとんどいつも-4点)、2点以上の場合に「希死念慮または孤独感あり」と判定。これらの判定結果と、性別、年齢、教育歴、職業タイプ、メンタルヘルス状態などとの関連を検討。

 ベースライン調査から2回目の追跡調査まで回答したのは875人。平均年齢41.74±10.4歳、男性52.9%、教育歴16年未満が46.3%、管理職/非単純作業者(74.1%)、ベースライン調査でメンタルヘルス不調(うつや不安などの治療歴)があると回答11.9%。

 追跡調査の1回目と2回目を比較すると、孤独感〔オッズ比(OR)1.60(95%信頼区間1.19~2.18)〕、希死念慮〔OR1.59(同1.13~2.26)〕ともに2回目の追跡調査の方が多く認められた。追跡調査1回目と2回目の間に生じた高まりを背景因子で層別化して解析すると、孤独感は、ほとんどの項目で、希死念慮は、女性〔OR1.86(同1.07~3.32)〕、若年成人(39歳未満)〔OR1.59(同1.01~2.56)〕、高学歴(16年以上)〔OR2.04(同1.26~3.36)〕、ベースライン調査でメンタルヘルスの不調なしと回答〔OR1.48(同1.01~2.18)〕で有意な上昇が認められた。(上図参照)

 続いて、2回目の追跡調査で希死念慮ありに該当することに関連する因子を、多重ロジスティック回帰分析で検討。交絡因子として、年齢、性別、教育歴、職業(単純作業者、管理職/非単純作業者)、ベースライン調査でのメンタルヘルス不調の有無、追跡調査1回目での希死念慮および孤独感を調整。結果、若年成人〔調整オッズ比(aOR)1.57(95%信頼区間1.09~2.28)〕、ベースライン調査でのメンタルヘルス不調〔aOR2.17(同1.28~3.67)〕、1回目の追跡調査での希死念慮〔aOR15.40(同10.06~23.58)〕の3項目に有意な上昇が認められた。

 報告は、「COVID-19のパンデミックにおいて、若者、精神疾患の既往のある人、孤独を感じている人など、取り残される可能性の高い人々を対象に、国やコミュニティによる支援が必要である」とまとめている。


「Increased suicidal ideation in the COVID-19 pandemic: an employee cohort in Japan」
 https://www.cambridge.org/core/journals/bjpsych-open/article/increased-suicidal-ideation-in-the-covid19-pandemic-an-employee-cohort-in-japan/9AF8483435FDC09739775A8691E49B2B