ヘリコバクター・ピロリ菌抗体価と委縮性胃炎と胃がんリスクとの関連!多目的コホート研究(JPHC Study)

 平成5年(1993年)に、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の6保健所(呼称は2020年現在)管内在住の40~69歳のうち、がんになっておらず、血液を提供した約2万人を、平成25年(2013年)まで長期間追跡した調査結果にもとづいて、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下「ピロリ菌」)抗体価と胃がん罹患リスクとの関連を調査。

 ピロリ菌抗体価により、3(U/mL)以下を陰性、3(U/mL)から10(U/mL)未満を陰性高値、10(U/mL)以上を陽性と分類。萎縮性胃炎については、血中ペプシノゲン(PG)Ⅰ及びⅡの値から、無し(PG<70ml or PG Ⅰ/Ⅱ>3.0)、有り((軽度(PG≦70ml & PG Ⅰ/Ⅱ≦3.0)、中等度(PG≦50ml & PG Ⅰ/Ⅱ≦3.0)、高度(PG≦30ml & PG Ⅰ/Ⅱ≦2.0))に分類。平均18年にわたる追跡中に、595人(男性:370人、女性:225人)が胃がんに罹患。性、年齢、地域、喫煙、胃がん家族歴、塩辛い食品の摂取頻度などの影響を統計学的に調整し、ピロリ菌抗体価による胃がん罹患リスクを推計。

 胃がんリスクは、ピロリ菌抗体価が陰性の人と比較して、ピロリ菌抗体陰性高値では2.8倍。萎縮性陽性では6.5倍であった(上図上段 参照)。

 さらに、萎縮性胃炎の程度を組み合わせてみたところ、萎縮性胃炎が「なし/軽度」の場合、ピロリ菌抗体価が陽性の人で胃がんリスクが高くなり、陰性高値の人でもリスクが少し高くなったが顕著な増加ではなかった。萎縮性胃炎が「中等度/高度」の場合、ピロリ菌抗体価にかかわらず胃がん罹患リスクは萎縮が「なし/軽度」の場合と比較して高くなっていた(上図下段 参照)。

 報告者は、「今回の結果から、ピロリ菌抗体価が陰性高値の人では、陰性の人と比較して胃がんリスクは高くなったが、そのリスクには萎縮性胃炎の程度が大きく影響することがわかった。ピロリ菌に感染して萎縮性胃炎が高度になると、ピロリ菌が消失して陰性になることが知られていることから陰性高値の人にはこのような人も含まれていると考えられ、ピロリ菌抗体価は陽性でなくても、萎縮性胃炎が進行していたことが、胃がんリスクの増加につながったものと推察される。したがって、ピロリ菌抗体価とともに萎縮性胃炎の程度を確認しておくことが重要である。胃がんのその他のリスク要因(喫煙、高塩分摂取、野菜・果物不足)に気をつけるとともに、定期的に胃がん検診を受け、早期発見・早期治療につとめましょう。」とまとめている。

多目的コホート研究(JPHC Study)
「ヘリコバクター・ピロリ菌抗体価-陰性高値と胃がんリスクとの関連について」
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8482.html


※ JPHC Study (Japan Public Health Center-based prospective Study):厚生労働省がん研究班による多目的コホート研究