滋賀医科大学のアジア疫学研究センター長 三浦克之氏が研究代表をつとめる厚生労働省指定研究NIPPON DATA※研究班の報告。家庭単位の食塩摂取量が、家族の構成員の将来の循環器病死亡リスクを上昇させることが明らかになった。日本高血圧学会の学会誌「Hypertension Research」電子版に記載。
対象は、日本全国から無作為抽出された300地区の一般住民で、1980年に実施された国民栄養調査に参加した30~79歳の男女。単身者、循環器病の既往歴のある者などを除外した8,702人(男性が44%、平均年齢49.4歳、3~5人家族の者が63%)。2004年まで24年間追跡。各食品・栄養素摂取量データは国民栄養調査における3日間の秤量法(平均的な食事をとった連続3日間について参加者が世帯単位で食品の重量を秤で量って記録する精度の高い栄養調査)。世帯単位の食塩摂取密度は「世帯全体の食塩摂取量÷世帯全体の総エネルギー摂取量」とし、1000kcalあたりグラム数で評価。性別、年齢、ボディマス指数(肥満度)、飲酒と喫煙の状況、仕事の強度の他、世帯単位の栄養摂取状況を調整。世帯単位の食塩摂取密度とその後24年間の総死亡、循環器病死亡(脳卒中と心臓病の合計)、冠動脈疾患死亡(大部分が心筋梗塞死亡)、および脳卒中死亡のリスクとの関連を比較検討。
結果、世帯の食塩摂取密度は平均6.25±2.02g/1000kcalで、追跡期間中の総死亡は2,360人、循環器病死亡は787人、冠動脈疾患死亡は168人、および脳卒中死亡は361人。世帯食塩摂取密度が2g/1000kcal(1標準偏差)上昇するごとの死亡リスクは、総死亡で1.07倍、循環器病死亡で1.11倍、冠動脈疾患死亡で1.25倍、および脳卒中死亡で1.12倍となり、いずれも統計学的に有意に上昇。また、対象者を世帯食塩摂取密度の四分位により4群(Q1~Q4)に分けて、最も塩味が薄い群をQ1、最も塩味が濃い群をQ4(4群の世帯食塩摂取密度は、Q1:4.9g/1000kcal未満、Q2:4.9-5.9g/1000kcal、Q3:5.9-7.2g/1000kcal、Q4:7.2g/1000kcal以上)として比較検討。結果、世帯食塩摂取密度が高いほどリスクが高くなる傾向にあった。(上図参照)
家族は同じ食事を一緒に摂る機会が多く、家族の構成員は家庭の味付け(塩味の濃さ)に慣れることが想定される。また、家庭で調理された味噌汁や煮物などの日本的な食事、近年増加している購入した加工食品など、食卓に並んだ料理の味付けを個人が調整することは難しいことからも、世帯単位の食塩摂取量の影響を評価することは重要。今回の研究の結果、世帯単位で評価した食塩摂取量(食塩摂取密度)が世帯構成員のその後の循環器病死亡リスクに影響することが示された。国民全体の食塩摂取を減らしていくためには、「家族ぐるみの減塩(家の味付けを変えていく)という視点からの対策が大変重要であることが示された」と報告している。
※NIPPON DATA研究
厚生労働省が実施した国民健康・栄養調査(毎年)、循環器疾患基礎調査(10年ごと)の長期追跡研究。全国の大学の研究者を中心とした厚生労働省研究班が実施しており、1980年の対象者約1万人(29年間追跡)、1990年対象者約8千人(25年間追跡)、2010年の対象者約3千人(追跡6年目)からなっている。
滋賀医科大学プレスリリース資料(PDFファイル)
https://www.shiga-med.ac.jp/sites/default/files/2019-11/%28滋賀医大%29【ご案内】1128記者説明会.pdf