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筑波大学 Kyeongho Byun 氏らの研究グループの報告。2023年6月15日筑波大学ホームページにて公表。研究成果は2023年6月15日に「GeroScience」に掲載。
地域に住む健康で過去6か月間定期的な運動を一切行っていないなど適格基準を満たした55歳から80歳の110人が対象。運動群(55人)と対象群(55人)にランダムに割り付け、運動群には3カ月間、週3回(1回30~50分)の低強度(最高酸素摂取量の35%)で自転車ペダリング運動を、対照群には、3カ月間通常の生活を送ってもらった。介入前後に、漸増運動負荷試験による最高酸素摂取量の測定と、ストループテストによる実行機能の測定を実施。実行機能の評価には、「ストループ干渉時間」(色のついた文字の意味に惑わされることなく文字の色を判断する速度)を評価指標として使用。また、ストループ課題中はfNIRSを前頭部に装着し、前頭前野の脳活動を6部位 (左右半球の前頭前野背外側部、腹外側部、前頭極) に分けて計測し、ストループ干渉に関連した脳活動を評価。さらに、課題成績と脳活動の関係から神経効率スコアを算出。
最終的に、介入を終えて事後測定まで参加した運動群41人(平均年齢68.6 (57-78)歳、男性10人)、対照群40人(平均年齢67.6 (55-76)歳、男性10人)の結果を比較検討。
結果
最高酸素摂取量は、対照群は介入後に低下、運動群は維持。ストループ干渉時間は、対照群で増加し、運動群は短縮。この結果から、3カ月間の低強度運動は中高齢者の実行機能を向上させる可能性が示された。次に、低強度運動が実行機能に与える効果は年齢により異なるのかを検証するため、参加者を年齢の中央値で中年期グループ(55-67歳)と高齢期グループ(68-78歳)に分けて分析。中年期グループは運動の効果は見られず、高齢期のグループのみで運動群が対照群に比べてストループ干渉時間が短縮。さらに、測定した前頭前野の領域すべてで、神経効率スコアが対照群に比べて向上。これは、少ない前頭前野の活動でストループ干渉を処理できるようになったことを示している。
以上により、3カ月間の低強度運動は、中高齢者、特に高齢者において実行機能を高めることと、その背景として前頭前野における課題遂行時の脳活動の効率化が起こっている可能性が示された。
報告は、「定期的な低強度運動では、脳活動の効率化(少ない脳活動で高い認知パフォーマンスを発揮する)が関与することが示唆された。長期の運動実践によって脳の機能的・構造的なネットワークが強化されたことにより、効率的に前頭前野を動員して認知課題を遂行できるようになった可能性がある」とまとめている。
「3カ月間の軽運動は高齢者の脳活動を効率化し、実行機能を高める」(TSUKUBA JOURNAL)
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20230615090000.html
「Mild exercise improves executive function with increasing neural efficiency in the prefrontal cortex of older adults」(GeroScience)
https://link.springer.com/article/10.1007/s11357-023-00816-3