多目的コホート研究(JPHC Study:Japan Public Health Center-based prospective Study)からの報告。 2021年9月6日「Cancer Sci.」にWeb先行公開。
飲酒・喫煙と腎がんの罹患についてアジア人を対象とした初めての疫学研究結果。
平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内(呼称は2019年現在)に在住者のうち、アンケート調査に回答した、40~69歳の105,663人(男性50,262人と女性55,741人)を対象に、平成27年(2015年)まで追跡した結果に基づいて飲酒・喫煙と腎がんとの関連を調査。
調査開始時の生活習慣に関するアンケート調査の回答から、飲酒習慣は、飲酒量をエタノール量(g)で換算したうえで、「飲んだことがない」「時々飲む(月に1~3日)」「週に149g以下の飲酒」「週に150~299gの飲酒」「週に300~449gの飲酒」「週に450g以上の飲酒」の6つのグループに分類。喫煙習慣は、現在も喫煙を続けている人における一日あたりの箱数と喫煙年数から喫煙指数を算出し、「非喫煙者」「過去喫煙者」「喫煙指数20未満の喫煙者」「喫煙指数20以上40未満の喫煙者」「喫煙指数40以上の喫煙者」の5つのグループに分類。
飲酒習慣は「飲んだことがない」、喫煙習慣は「非喫煙者」のグループを基準として、その他のグループにおける腎がんの罹患リスクを検討。
結果
・ 平均約19.1年間の追跡期間中に、対象となった約10万6千人のうち340人(男性230人と女性110人)が腎がんに罹患。
・ 飲酒習慣は、飲酒するグループで腎がんの罹患リスクがわずかに下がったが統計学的に有意ではなかった。
・ 喫煙習慣は、「喫煙指数40以上の喫煙者」のみ、「非喫煙者」に比べて腎がんの罹患リスクが約1.5倍高い結果(下図参照)。
報告は、「今回の研究では、飲酒習慣のあるグループで、腎がんの罹患リスクがわずかに低かったものの、統計学的有意ではなく、これまでの欧米からの報告とは異なった結果。欧米の先行研究では、少量の飲酒により、腎がんのリスクの一つである糖尿病のリスクが下がることが報告されており、糖尿病予防が間接的に腎がんのリスク低下につながる可能性が考えられる。本研究で関連がみられなかった理由として、日本人は欧米人と比較してインスリン分泌量が少ないことなどから、飲酒による糖尿病や、それに伴う腎がん罹患に与える影響が小さかったことが考えられる。また、喫煙習慣では、喫煙指数が高いグループでのみ腎がんの罹患リスクが高い結果だった。先行研究では、本研究よりも少量の喫煙でも腎がんのリスクが統計学的有意に増加することが報告されており、たばこに含まれる発がん物質の代謝にかかわる酵素作用の人種による遺伝的な差が影響している可能性などが考えられる」とまとめている。
「飲酒、喫煙と腎がんの関連について」(多目的コホート研究)
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8791.html
「Alcohol consumption, tobacco smoking, and subsequent risk of renal cell carcinoma: The JPHC study」
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34490717/